●ダラー・ウォッチとは
1850年代以降に起こった時計大衆化の歴史について考えるとき「ダラー・ウォッチ」(dollar watches)というのは見過ごすことの出来ない巨大なジャンルであるかと思います。「ダラー・ウォッチとは何だ?」と言う事をごく簡単に要約しますとそれは、「高価な仕掛けは持たない簡素な造りながら、平均的な収入の労働者が自分のために買い求める事の出来る売価1ドル内外の、一定期間きちんと動く、19世紀後半にアメリカで生まれ大量に生産され人々に愛用されたマシン・メイド懐中時計」
という事になるかと思います。つまり「一般大衆の時計」であります。ダラー・ウォッチが誕生するまで人類は真の意味での「一般大衆の時計」を持たなかったと言っても過言ではないと私は思います。
「大衆の時計」という概念そのものは思ったよりも古いもので、私の知る中ではA.L.ブレゲが1794年頃に「大衆が受け入れる時計」という表現を「スースクリプション」というウォッチ販売募集チラシの中で用いたのが「大衆の時計」という概念を世に提示した最も古い例であるように思います。
しかしながらブレゲの提唱する「大衆の時計」たるスースクリプションは現代の目から見ると構造こそはシンプルであるもののその材質、工作、手間のかけ方などを見るにこれは問題外の高品質なもので充分以上に立派な高級品であると言わなければなりません。その価格は当時600リーブル。これを購入できたのは恐らく一部の富裕な市民 に限られていたのではないかと想像されます。
ブレゲが「大衆のための時計」という概念を提唱してから「真の大衆の時計」が誕生するまでに実際には100年近い年月を必要としたことになります。本トピックではその経緯について考えてみたいと思います。
尚、 今回のダラー・ウォッチに関する書き込みは何年か前mixiの「時計の歴史」コミュニティに書き始めて中断していたものの再掲です。こちらのブログに移動したのを機に中断したままだったところ以降も順次書き加えていく予定でおります。
(主な参考図書)
"American Watchmaking"
- A Technical History of the American Watch Industry 1850-1930 -
by Michael C. Harrold
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"The Watch That Made The Dollar Famous"
by George E. Townsend
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"Watches 1850-1980"
by M. Cutmore
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※ハロルドの"American Watchmaking"は1981年出版の質素な装丁のものですが、内容は素晴らしいものです。このような本を残してくれたハロルド氏には感謝あるのみです。
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