2009年6月30日火曜日

ダビド・レポート(10)

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例えば広告宣伝費。1876年当時のエルジンやウォルサムは広告宣伝に類する費用として以下のような支出をしていたそうです。

・各種ジャーナル誌への広告掲載料
・各種年鑑などへの広告掲載料
・問屋や小売店に配布するカタログ類製作費用
・アドレスカード製作費用
 ※ワトキンスの英訳文が"address cards"ですが何の事か良く判りません。店名入りチラシのようなものかノベルティのようなものでしょうか?

・錫合金製品質保証メダルの製作費
・販売その他に有用な事をしてくれた人々への贈呈用ウォッチ現物
 ※有名人などへの贈呈分も含まれているのではないかと思います

ダビドはウォルサムやエルジンがありとあらゆるジャーナル類に広告宣伝を掲載していると聞いて「ヨーロッパでは絶対あり得ない事だ」と驚いています。当時のヨーロッパにおけるウォッチの広告というのは業界誌紙にチョロッと掲載される程度のものだったそうです。

ところが冗談ではなくアメリカにおいては一般人の読む全てのジャーナル類においてこの2社の広告を容易に見つけることが出来たそうです。ワトキンス英訳文 が"magazines"ではなく"journals"ですから現代で言う"TIME"や"LIFE"みたいなお堅い雑誌の全てという事ではないかと思います。日本で言えば文藝春秋やダイヤモンドやプレジデントなどのおっさん雑誌にいちいちセイコーやザ・シチズンの広告が掲載されている、といった感じで しょうか。そして「週刊大衆」とか「実話時代」とか「週刊エロトピア」とか「ヤングオート」とか「少年ジャンプ」などは当然広告対象から除外されていたでしょう。冗談です。

アメリカにおける絨毯爆撃のような広告の効果が絶大であると見て取ったダビドはレポートの中で、

「アメリカの工場を褒めそやしている感のある我々のこのレポートが間違ってもアメリカのウォッチ宣伝に挑発的に使われる事が無いよう充分注意しなければならない」

と大真面目に心配していてこれにはちょっと笑いました。でも確かに、

「スイス人もびっくり!アメリカン・ウォッチの実力の前にスイス人顔色無し!」

みたいな見出しでうっかり流出したダビド・レポートが広告で引用されたりしたらスイス人にとっては不名誉な事この上ない、と言うか慄然とする事態ですね。そう言った意味でもダビド・レポートは断じて秘匿されねばなりません。

ダビドによれば「エルジンが1874年にこの種の広告宣伝物に費やした費用は15,000ドルである。ならば恐らくウォルサムも殆ど同額であろう」とのこと。という事はこれで経費総額は、

→715,000+15,000=730,000ドル

となりました。


それではもう一つの主要な営業経費、販売支社の維持はいかほどのものだったのでしょうか。これが実は広告宣伝費など問題にならない程の莫大な費用を要したようです。当時ウォルサムはボストン、ニューヨーク、ロンドンに、エルジンはニューヨーク、シカゴ、ロンドンとペテルスブルグに支社を持っておったそうですがダビドによれば、

「これらは超絶豪華な会社で製品のコストを目に見えて上昇させているに違いない」

のだそうです。ダビドの聞いたところではウォルサムのニューヨーク支社の年間経費は$100,000、ボストン支社で$50,000なのだそうです。ロンドンは25,000 フラン(大体$117,500くらいか)。ウォルサムの工場の年間生産コストが$715,000である事を考えると支社維持というのはまた随分コストがか かるもんなんだなという印象です。ニューヨークとボストンとロンドンの支社の経費をここで加算すると、

→730,000+267,500=997,500ドル

となります。つまり1876年当時のアメリカン・ウォッチ・カンパニーの年間総支出額は100万ドル近くあったと考えられます。スイスはサンティミエのロンジンという名のショボい工場(失礼)からやって来たジャック・ダビドにとっては天文学的な金額に思えた事でしょう。

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尚 この「支社」のワトキンス英訳原文は"agencies"です。ただ、原文の文脈を読んでいくと代理店というよりは直営の販社や支社のような形態に思えましたのでメールでワトキンス氏に尋ねてみました。そうしましたら「agenciesというのは曖昧な言葉だけどこのエージェンシーというのはウォルサムの 支出によって設立され、準備されたものです。但し彼らは彼ら自身の経営マネージメントをする自由を与えられていて、実際にウォルサムの工場から一旦ウォッチを買って、代理店みたいにして売るという商売形式でした。このエージェンシーは卸もしたしリテール販売もしました」との事でした。迷いましたが今回は敢えて「支社」と訳しました。
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(つづく)
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