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さて、ダビド・レポート第2章「諸工場の財務状態(Financial Conditions)」は数字が多いため一見地味な内容に思えます。ですがこの数字を読んでみると非常に面白いのです。ジャック・ダビドの厳しい?財務分析を通じて現れる当時のアメリカン・ウォッチ・カンパニーやエルジンの経営状況というものが非常に興味深く感ぜられます。以下、長くなりますがお時間のある方は是非お付き合い下さい。
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さて、この第2章においてダビドは 「アメリカ式生産というのはどれ程の資本を必要とするのか、経営は成り立つのか、そしてそれはどれほどの利益を生むのか」という疑問に対する回答を導くべくアメリカン・ウォッチ・カンパニーをサンプルとしてその経営内容についてあれこれ試算しております。これはアメリカ式生産方法を導入するにあたってどうしても避けて通れない分析です。
そこでダビドは最初に「アメリカのウォッチ・カンパニーの生産コストはどれほどのものか」という分析と試算を必要経費から割り出すべく試算をいたしました。その試算結果は以下の通りです。
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ダビド試算による1876年当時のウォルサムの支出額
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*単位は全てドル、金額は全て年額
・2名の最高責任者の給与合計...............................10,000#
・3名の事務員(多分秘書).....................................4,000#
・20名の職長の給与合計.........................................36,000#
・10名の品管責任者の給与合計..............................8,000#
・10名の事務員の給与合計......................................3,800#
・5名の副職長の給与合計.........................................5,000#
・50名のメカニックの給与合計.............................43,000#
・暖房費と動力費..................................................4,500
・保険......................................................................6,000
(※補償額 $800,000の0.75%)
・ガス灯..................................................................3,500
・工場建物の補修、保守点検費用...........................1,000
・夜警、清掃費など...................................................5,000
・様々な時計パーツ代金(輸入品)........................4,800
・様々な時計パーツ代金(国内調達)....................2,400
・鉄鋼、真鍮、油脂類、工具機械類.........................75,000
・日給1ドルの女性従業員310名の給与合計..............94,550*
・日給0.7ドルの見習い20名の給与合計....................42,700*
・日給2.5ドルの従業員365名の給与合計.................274,500*
・払込資本1,500,000ドルに対する6%配当..............90,000
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以上合計 $714,850
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この試算で私が一番驚いたのはアメリカン・ウォッチ・カンパニーは予想に反して非常に多額の人件費を支払っていたという事です。一般の工場従業員の給与(上の試算の*印の項目)合計は何と、
→$411,750
であります。つまり総経費$714,850の57%が人件費なのです。これに役付き、上級社員の報酬(上の試算の#印の項目)100名で$106,980を加算するとその合計は、
→$518,730
となり、実に工場総支出の72%が人件費だという事になります。現代の製造業の人件費割合は15%〜20%くらいだそうですから当時のアメリカのウォッチ会社はスイスなどに比べて先進的とは言うものの実はまだまだ労働集約型の産業だったようですね。
我々時計バカ、いや時計趣味人は「19世紀後半に現れたアメリカのウォッチ産業は機械化の進んだ先進的なものだった」という風に理解しております。それ自体は間違いではありません。だがそれは必ずしも「人件費が極小だった」という事と同義では無かったようです。これは私にとって驚きでありました。
また上記試算の最後の項目、株主への配当はダビドの推測数値です。ダビドとしては控えめな数値のつもりのようです。ダビド・レポートにはアメリカン・ウォッ チ・カンパニーの1859年以降18年間のの株式配当の一覧が載っておりますがその配当率は最低は0%から最高は60%までの大きな変動が見られるものとなっており、これなどもウォルサムの経営が波乱に富んだものであった事を窺わせます。ちなみに高配当の時期はやはり南北戦争でウォッチ需要が爆発的に増加した時期に重なっております。
ちなみにエルジンは株主への配当を常に3〜4%に抑えていたそうです。エルジンも常に多額の設備投資の必要に迫られており、株主達には低いリターンで我慢して貰っていたようです。
いずれにしても、
→約$715,000
これが一年間を通してウォルサムの工場を動かし続け、ウォッチを生産するのに必要な費用総額です。だからこれを年間ウォッチ生産総個数で割れば「ウォッチ1個あたりの生産コスト」が判ります。
(ウォルサム・ウォッチ1個あたりの平均生産コスト)
・年間80,000個生産で$8.93(フラン換算Fr 41.95)
・年間100,000個生産で$7.15(フラン換算Fr 33.60)
・年間120,000個生産で$5.96(フラン換算Fr 28.00)
勿論この数字はダビドの推測を交えた概算ですが重役やワーカー達の給料、外部からの資材調達費などよく調べてあって「よく情報を提供して貰えたもんだなあ」と感心します。
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ダビドがフラン併記をした理由は恐らくスイスのウォッチ産業人が自分たちのウォッチの平均単価と比較出来るようにという配慮ではないかと思われます。ちなみに当時の1ドル=4.70スイス?フランのようです。
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但し上の計算には重大なものが含まれておりません。それは営業経費とも言うべき部分です。具体的には「広告宣伝費」と「全国主要都市に設置した販売支社の維持費」の二つ。この二つが実はこの会社の利益を吹っ飛ばす程の莫大な経費を要しおりました。
(つづく)
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