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ジャック・ダビドもアーネスト・フランシヨンもロンジンの工場では労働者の質的改善や労働者の意識改革をどのようにして達成するかについて頭を悩ませていたそうです。だからジャックはアメリカの労働者の質の高さ、組織の整然たる有様に余計驚いたのでありましょう。ちなみにウォルサムが社宅を完備していたという話は時々読みますがダビド・レポートからはウォルサムの社員が自費で瀟洒な家を建てる例も少なくなかったらしい事が読みとれます。
ところでこのレポートにアーロン・デニソンが1850-52年の間スイスに滞在してスイスのウォッチメイキングを研究していたとありますが、これは常識なのでしょうか?アーロンがイギリスに行ったり、後年トレモント・ウォッチの時にスイスに行ったりしたという話はよく読みますがボストン・ウォッチ・カンパニー 以前の時代に二年間もスイスに行っていたというのはダビド・レポートを読むまで知りませんでした。
ジャックはこの話を「ある人」(ダビド・レポートではあらゆる個人名が伏せられている)から「自分とアーロンの二人で行った話」として直接当事者から聞いたらしいので結構信頼性の高い話ではないかと思います。この種の臨場感ある話が出てくるところがダビド・レポートの面白いところです(私の無知だったらお許し下 さい)。
ちなみにダビド・レポートにおいて名前の伏せられている「ある人」とは恐らくネルソン・ストラットン(Nelson P. Stratton)ではないでしょうか?ボストン・ウォッチ・カンパニー設立時にアーロン・デニソンが一緒に伴っていた人物としてストラットンの名前は良く出てきます。この人はアメリカで初めて「マシン・メイド・ウォッチ」の試みを行った人として知られる時計師ピットキン(Pitkin)の4人の弟子の一人だった人です。1840年代にデニソンに気に入られて雇われて以来、長くウォッチ業界にいて基本的にデニソンと行動を共にする機会が多かったようです (1860年代まで。イギリスなど海外に出張滞在する事も多かったようです)。
ボストン・ウォッチ・カンパニー設立前にデニソンと一緒に スイスに行って勉強してその後もウォッチ業界に居続けた人、というとこのストラットン氏である可能性が非常に高い、と愚考するものであります。ジャック・ ダビドは何らかの理由でこの古老の話を聞く機会を得てこれを書き残した物ではないかと思われます。
さて、ダラダラと話が長くなっておりますが以下、ジャック・ダビドが本章の締めくくりに述べている文を一部訳します。
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現在(アメリカにおいて)稼働しているウォッチ工場が能く現状を維持し外国製品との競合を克服する事に成功したならば(彼らはそうするのに適したポジション にいるのだが)将来的にはウォッチ工場の数は増える事であろう。これは我々のようにウォッチ製造によって生計を立てている国々にとっては重要な問題である。そのような国は自分たちの製造方法を避けて通ることの出来ない方法(訳注:機械的製造のこと)へと変更すべく一刻も早く必要な一歩を踏み出さなければならない。我々がそれを行うのを待てば待つほどアメリカは製造機械を設備する時間的余裕を持つであろうし、それだけ彼らは成功を収め、確固たる地盤を築くことになろう。
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ジャック・ダビドの深刻な危機感が吐露された一節です。現在のアメリカは経済状況が足を引っ張ってウォッチ産業の生産が一時的な足踏み状態にあるが経済が回復したら物凄い勢いで奴等は伸びて来るであろう、だから我々スイスも一刻も早く新しい生産方式を取り入れないとダメなんだ、という事をジャック・ダビドは言っているのであります。実際アメリカのウォッチ産業はジャックの言うとおりその後またまた爆発的な成長を遂げることとなったのであります。
第一章の内容紹介は以上です。次は第二章「財務状況」ですがここにおいてスイス人ジャック・ダビドはアメリカン・ウォッチカンパニーに対してなかなか鋭い財務分析を行っています。「よく当時こんな資料が入手出来たものだな」と感心します。この財務分析によって炙り出されるアメリカン・ウォッチ・カンパニーの姿は実は我々がこれまで聞いて来たものと実は隔たりがあります。個人的には非常に参考になりました。次の書き込みをご覧いただければ幸いです。
(つづく)
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